[[index.html|醒睡笑]] 巻1 祝ひ過ぎるも異なもの ====== 3 ある女房のもとに使はるる下衆の名を福といふありき・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== [[n_sesuisho1-134|<>]] ある女房のもとに使はるる下衆(げす)の名を福といふありき。大歳(おほとし)の夕べ、下衆に向ひ、「そちは宵から宿へ行きて休み、明日はとく起き来たり門を叩け」と暇をやりぬ。 夜も更け過ぎて、五更(ごかう)に及べども来たらず。されども門を叩く音せり。「すはや」と思ひ、「誰(たれ)ぞ」と言ふに返事なし。あまりにたへかねて、「福かやれ」と言ひければ、「いや与次郎でござる。何しに福であらう。福は宵からよそへいたものを」とぞつぶやきける。 雄長老   鬼は内福をは外へ出だすとも歳一つづつ寄らせずもがな 也足((中院通勝))の判、「もつとも興あり。されども、たとひ年は一つ二つ寄らせ候ふとも、福を外へ出ださんこと、いかがと申すべくや。一笑一笑」。 [[n_sesuisho1-134|<>]] ===== 翻刻 ===== 一 ある女房のもとにつかはるる下すの名を福(ふく)   といふ有き大としのゆふへ下すにむかひ   そちはよひから宿へゆきてやすみあすはとく   をききたり門をたたけとひまをやりぬ夜も   ふけすきて五更(こかう)にをよべともきたらすされとも   門をたたくをとせりすはやと思ひたれぞといふ   に返事なしあまりにたへかねて福かやれと/n1-67r   いひけれはいや与次らて御さるなにしに   ふくてあらふ福はよひからよそへゐた物   をとそつふやきける雄長老    鬼は内福をはそとへ出すとも    とし一つつつよらせすもかな   也足の判尤興ありされともたとひ年は   一二よらせ候とも福をそとへ出さん事いかかと   申へくや一笑々々/n1-67l