[[index.html|醒睡笑]] 巻1 祝ひ過ぎるも異なもの ====== 22 尾州に米野与兵衛といふ武士あり・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== [[n_sesuisho1-153|<>]] 尾州に米野与兵衛といふ武士あり。ただごとならず物忌(ものいみ)する人なりし。熱田大明神 を信仰し、折々参詣のたび、先へ侍を走らせ、右の方に不吉の物あれば、右へ向きて、「たんぽぽ」と言ふ。すなはちかの人、顔を左に行き、左の方に不吉の物あれば、左へ向きて、「たんぽぽ」と言ふ。すなはちかの人、顔を右になして行く。奇妙の仕合はせなりし。 ある時の参りに、左に雁(かり)の生きたるが、え立たずしてゐたり。すなはち右の与兵衛、きつと雁を捕まへ、「これは『かりがね』、いやな物。『かしがね』なればよいが」。また、とりまはし、「これはがんすまぬ物。いまいまし。ただ持ていて捨てよ」と言へる、をかしや。 [[n_sesuisho1-153|<>]] ===== 翻刻 ===== 一 尾州に米野与兵衛といふ武士ありたた事   ならす物いみする人なりし熱田大明神   を信仰(しんかう)し折々参詣の度先へ侍をはしら   せ右の方に不吉の物あれは右へむきてたん   ほほといふすなはち彼人顔(かほ)を左に行左の方   に不吉の物あれは左へむきてたんほほといふ   すなはち彼人かほを右になして行奇妙の/n1-77l   仕合なりしある時の参りに左に雁(かり)のいき   たるかえたたすしてゐたりすなはち右の与兵   衛急度(きつと)雁をつかまへ是はかりかねいやな物かし   かねなれはよいか又とりまはし是はがんすまぬ   物いまいまし唯もていて捨よといへる   おかしや/n1-78r