[[index.html|篁物語]]
====== 2-1 時の右大臣の女賜へと文をおもしろく作りて・・・ ======
===== 校訂本文 =====
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時の右大臣の女(むすめ)賜へと、文(ふみ)をおもしろく作りて(([[:text:jikkinsho:s_jikkinsho10-44|『十訓抄』10-11]]参照。))、内に参り給ふとて、御車より通り給ふごとに、つい振舞ひて奉れ給ふに、取りて見給ひ、「承りぬ。今((「今」は底本「あま」。諸本により訂正。))家にまかりて、御返り聞こえん」とのたまふ。大学に入りにけり。
殿にかへり給ひて、御女(むすめ)三人おはしけり。大君に、「しかじかのことなんある。いかに」と聞こえ給へば、怨(え)じて泣きて入り給ひぬ。中の君、同じこと聞こえ給ふ。
三の君に聞こえ給ふ。「ともかくも仰せごとにこそしたがはめ」とのたまへば、いと清げに寝殿作りて、よき日して呼び給ふ。
御消息(せうそこ)ありければ、いと悲しう、橡(つるばみ)の衣(きぬ)の破れこうじたる着て、しりゐたる沓履きて、ふくめる書(ふみ)の帙(ちち)((「帙」は底本「なく」。諸本により訂正。))取りて来にけり。堂(だう)の内に入りて、まづこの文巻(ふみまき)を給へれば、取り給はねば、篁さして行けば、この君、革の帯を取りて引き留(と)め給へば、留(と)まり給ひにけり。
これを垣間見て、父大臣(ちちおとど)見給ひて、いとかしこうしつつ、喜び給ふ。「出でていなまし。いかに人聞きやさしからまし。いとかしこきことなり」と喜び給ふに、一日の夜いといかめしうして、待ち給ふ。ただ童(わらは)一人ぞ具し給ひける。
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===== 翻刻 =====
てひとりなむありける時の右大臣
の女たまへとふみをおもしろくつ
くりてうちにまいりたまふと
て御車よりとほりたまふことに
ついふるまひてたてまつれ給
にとりてみたまひうけたまは
りぬあま家にまかりて御返きこ/s21r
えんとの給たいかくに入にけり殿
にかへり給て御女三人おはしけり
大君にしかしかのことなんあるいかに
ときこえ給へはえしてなきて
入給ぬ中の君おなし事きこえ
たまふ三の君にきこえ給とも
かくもおほせことにこそしたかはめ
との給へはいときよけにしんてむ
つくりてよきひしてよひたまふ
御せうそこありけれはいとかなしう/s21l
https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100002868/viewer/21
つるはみのきぬのやれこうしたる
きてしりゐたるくつはきてふく
めるふみのなくとりてきにけり
たうのうちにいりてまつこの
ふみまきをたまへれはとりたまは
ねはたかむらさしていけはこの君
かはのをひをとりてひきとめた
まへはとまり給にけりこれをかい
まみてちちおととみ給ていと
かしこうしつつよろこひたまふ出て/s22r
いなましいかに人ききやさしから
ましいとかしこきことなりとよろ
こひ給に一日の夜いといかめしう
してまちたまふたたわらはひとり
そくしたまひけるさてこのころ/s22l
https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100002868/viewer/22