平中物語
また、この同じ男、友達ども、あまたものして、日の暮れにければ、1)帰り来るに、道のほどに、ある人の言ひける。「名もあるものを、ここら来てや、ただに帰らむ。『この花の飽かぬに帰る』こと詠まむ」。「げにげに2)、さ言はれたり」とて、集まりて、まづ、平中、
花に飽かで何帰るらむ女郎花多かる野辺に寝なましものを
と詠みけり。いまかたへの人々も詠みけり。
はしとてをとこやみにけり又このおなしをとこ/20オ
ともたちともあまたものしてひのくれにけ れはわつらはしとておとこやみにけりまたこの おなしおとこともたちともあまたものしてひ のくれにけれはかへりくるにみちのほとに ある人のいひけるなもあるものをここらきて やたたにかへらむこのはなのあかぬにかへること よまむけにてけにさいはれたりとてあつまりて まつへいちう はなにあかてなにかへるらむおみなへし おほかる野へにねなましものを とよみけりいまかたへの人々もよみけりまた/20ウ