平中物語
また、この男の家には、前栽好みて作りければ、おもしろき菊など、いとあまたぞ植ゑたりける。間をうかがひて、月のいと明きに、女ども集り来て、前栽どもなど見て、花の中にいと高きにぞ付けて言ひける。
行き難(が)てにむべしも人はすだきけり花は花なる宿にぞありける
とてぞ、みな帰りける。
さりければ、この男、「もし、来て取りもやする」とて、花の中に立ててぞ、
わが宿の花は植ゑしに心あれば守る人なみ人となすにて
とぞ、書きて立てりける。
「取りにや来る」と、うかがはせ1)けれど、たゆみたるにぞ、取りてける。口惜しく、知らせでやみにけり。
なく人のいゑとうしにそなりにける又この おとこのいゑにはせんさいこのみてつくり けれはおもしろききくなといとあまた そうゑたりけるまをうかかひて月のい とあかきに女とんあつまりきてせんさいとも なと見てはなのなかにいとたかきにそ/25ウ
つけていひける ゆきかてにむへしも人はすたきけり はなは花なるやとにそありける とてそみなかへりけるさりけれはこの男 もしきてとりもやするとてはなのなかに たててそ わかやとのはなはうゑしに心あれはま もる人なみひととなすにて とそかきてたてりけるとりにやくるとう かかはけれとたゆみたるにそとりて けるくちをしくしらせてやみにけり又/26オ