平中物語
また、この男、見通ひにして、人目にはつれなうて、内にはもの言ひ通はすことはあれど、会ふべきことは難くぞありける。
されば、思ひは離(か)れず、思ふものから、異女(ことをんな)ども、この男の親族(しぞく)の男なる、花摘みにぞ行きける。
さて、山にまじりて遊ぶに、この男の馬放れにけり。荒れて、さらに捕られざりければ、このごろ通はす女ぞ、「恐しくも、早りあるかな」。男。
春の野に荒れて捕られぬ駒よりも君が心ぞ懐(なづ)けわびぬる
女、返し。
取る袖の懐くばかりに見えばこそ摘み野の駒も荒れまさるらむ
女いかか思ひけんあひかたらひにけり又この おとこ見かよひにして人めにはつれなうて うちにはものいひかよはすことはあれとあ ふへきことはかたくそありけるされはおもひ はかれすおもふものからこと女とんこのおとこ のしそくのをとこなるはなつみにそいき けるさて山にましりてあそふにこの男の むまはなれにけりあれてさらにとられさり けれはこのころかよはす女そおそろしくも/48オ
はやりあるかなおとこ はるの野にあれてとられぬこまよりも きみか心そなつけわひぬる 女かへし とるそてのなつくはかりにみえはこそ つみののこまもあれまさるらん