一言芳談抄 巻之下
ある人云はく、「遁世(とんせい)といふは、深く人を厭(いと)ふべからず。ただし、ゆゑなく人を恐るる、また僻因(ひがいん)なり。いま厭ふゆゑは、深く名利を厭ふゆゑなり。そもそも、また凡夫(ぼんぶ)の行人(ぎやうにん)は、独身(どくしん)にして難治(なんぢ)なるゆゑに、いたく名利をもよほさぬ同行一両人。、あひかまへて親しむべきか。それも多くならば、かたがた難あるべきなり」。
有(ある人)いはく。遁世(とんせい)といふは。ふかく人(じん)をいとふべからず。但(ただし) ゆへなく。人をおそるる。又ひかいんなり。いまいとふゆへ は。ふかく名利(みやうり)をいとふゆへなり。抑(そもそも)又凡夫(ぼんぶ)の行(ぎやう) 人(にん)は。独身(どくしん)にして。難治(なんぢ)なる故(ゆへ)に。いたく名利 をもよほさぬ。同行(どうぎやう)一両人(りやうにん)あひかまへて。したしむ/ndl2-21r
べき歟。それもおほくならば。かたかた難(なん)あ るべきなり/ndl2-21l