今物語
待賢門院の堀河、上西門院の兵衛、おとといなりけり。夜深くなるまで、草子を見けるに、灯火(ともしび)のつきたりけるに、油綿(あぶらわた)をさしたりければ、世に香ばしく匂ひけるを、堀河、
灯火は薫(た)き物にこそ似たりけれ
と言ひたりければ、兵衛、とりもあへず
丁子(ちやうじ)がしらの香や匂ふらん
と付けたりける、いとおもしろかりけり。
待賢門院のほりかは上西門院の兵衛おととひなり けり夜ふかくなるまてさうしを見けるにともし火のつ きたりけるにあふらわたをさしたりけれはよにかうはし くにほひけるを堀河 ともし火はたき物にこそ似たりけれ/s11l
といひたりけれは兵衛とりもあへす ちやうしかしらの香やにほふらん とつけたりけるいとおもしろかりけり/s12r