今物語
かねてより思ひしことぞ伏し柴のこるばかりなる歎きせむとは
といふ歌を年ごろ詠みて、持ちたりけるを、「同じくは、さりぬべき人に言ひ睦びて、忘られたらんに詠みたらば、集などに入りたらむも優(いう)なるべし」と思ひて、いかがありけむ、花園の左の大臣(おとど)3)に申し初めてけり。
その後、思ひのごとくやありけん、この歌を参らせたりければ、大臣殿もいみじくあはれに思しけり。
かひがひしく千載集に入りにけり。世の人「伏し柴の加賀」とこそ言ひける。
待賢門院の女房加賀といふ哥よみあり かねてよりおもひし事そふし柴のこるはかりなるなけきせむとは といふ哥をとしころよみて持たりけるをおなしくはさり ぬへき人にいひむつひてわすられたらんによみたらは集 なとに入たらむもいうなるへしとおもひていかかありけむ 花園の左のおととに申そめてけりそののちおもひのこ とくやありけんこの歌をまいらせたりけれは大臣殿も いみしくあはれにおほしけりかひかひしく千載集に入 にけり世の人ふし柴の加賀とこそいひける/s15l