今物語
しかるべき所に仏供養しけるに、堂の飾りより始めて、えもいはぬ聴聞の局の几帳の内に、空薫(そらだき)の香満ちて、いみじかりけるに、聴聞の人の多く集りて、耳を澄ましたるに、内よりおびただしく大きなる屁の音、出で来にけり。
皆人、興醒めて侍るに、導師、とりもあへず、
放逸邪見の里にはついくわをも惜しむ
聴聞随喜の局よりおほへをこそうち出だされたれ
と言ひたりける、あさましくも、をかしくもありけり。
しかるへき所に仏供養しけるに堂のかさりよりはしめて えもいはぬ聴聞のつほねのきちやうのうちにそらたきの香/s29r
みちていみしかりけるに聴聞の人のおほくあつまりて耳を すましたるにうちよりおひたたしくおほきなるへのをと いてきにけりみな人興さめて侍るに道師とりもあへす 放逸邪見の里にはついくわをもおしむ聴聞随喜の局 よりおほへをこそうちいたされたれといひたりけるあさまし くもおかしくもありけり/s29l