昔、男、宮仕へしける女の方に、御達(ごたち)なりける人をあひ知りたりける、ほどもなくかれにけり。同じ所なれば、女の目には見ゆるものから、男はあるものかとも思ひたらず。女、
天雲(あまぐも)のよそにも人のなりゆくかさすがに目には見ゆるものから
と詠めりければ、男、返し、
天雲のよそにのみしてふることはわがゐる山の風はやみなり
と詠めりけるは、また男ある人となんいひける。
むかし男みやつかへしける女のかたにこ たちなりける人をあひしりたりけるほと もなくかれにけりおなし所なれは女の めには見ゆる物からおとこはあるもの かともおもひたらすをんな あまくものよそにも人のなりゆくか さすかにめにはみゆるものから とよめりけれはおとこ返し あま雲のよそにのみしてふることは/s30l
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わかゐる山のかせはやみなり とよめりけるは又おとこある人となんいひける/s31r