昔、はかなくて絶えにける仲、なほや忘れざりけむ、女のもとより、
憂きながら人をばえしも忘れねばかつ恨みつつなほぞ恋ひしき
と言へりければ、「さればよ」と言ひて、男、
あひ見ては心ひとつをかはしまの水の流れて絶えじとぞ思ふ
とは言ひけれど、その夜いにけり。いにしへ、行くさきのことどもなど言ひて、
秋の夜の千代を一夜(ひとよ)になずらへて八千代し寝ばやあく時のあらん
返し
秋の夜の千代を一夜になせりとも言葉残りて鶏(とり)や鳴きなむ
いにしへよりもあはれにてなん通ひける。
昔はかなくてたえにけるなかなをやわ すれさりけむ女のもとより/s34r
うきなから人をはえしもわすれねは かつうらみつつ猶そ恋しき といへりけれはされはよといひておとこ あひ見ては心ひとつをかはしまの 水のなかれてたえしとそ思ふ とはいひけれとその夜いにけりいに しへ行さきのことともなといひて 秋の夜のちよをひとよになすらへて やちよしねはやあくときのあらん/s34l
https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/200024817/34?ln=ja
返し あきのよのちよを一夜になせりとも ことはのこりてとりやなきなむ いにしへよりもあはれにてなん かよひける/s35r
【絵】/s35l