まれまれかの高安に来てみれば、始めこそ心にくくもつくりけれ、今はうちとけて、手づから飯匙(いひがひ)取りて、笥子のうつは物に盛りけるを見て、心憂がりて、行(い)かずなりにけり。
さりければ、かの女、大和の方を見やりて、
君があたり見つつを居(を)らん生駒山雲な隠しぞ雨は降るとも
と言ひて見出だすに、からうじて大和人、「来ん」と言へり。喜びて待つに、たびたび過ぎぬれば、
君来むといひし夜ごとに過ぎぬれば頼まぬものの恋ひつつぞ経る
と言ひけれど、男、住まずなりにけり。
まれまれかのたかやすにきてみれははし めこそこころにくくもつくりけれいまは うちとけててつからいゐかひとりてけ このうつは物にもりけるを見て心う かりていかすなりにけりさりけれはかの 女やまとのかたを見やりて きみかあたりみつつををらんい駒山 くもなかくしそ雨はふるとも といひてみいたすにからうしてやまと/s39r
ひとこんといへりよろこひてまつに たひたひ過ぬれは 君こむといひし夜ことにすきぬれは たのまぬもののこひつつそふる といひけれとおとこすますなりにけり/s39l
https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/200024817/39?ln=ja
【絵】/s40r