昔、男ありけり。「逢はじ」とも言はざりける女の、さすがなりけるがもとに言ひやりける、
秋の野に笹分けし朝の袖よりもあはて寝(ぬ)る世ぞひぢまさりける
色好みなる女、返し、
みるめなきわが身をうらと知らねばやかれなて海人(あま)の足たゆく来る
昔おとこありけりあはしともいはさり けるをんなのさすかなりけるかもとに いひやりける 秋の野にささわけしあさの袖よりも/s42r
あはてぬるよそひちまさりける いろこのみなる女返し 見るめなき我身をうらとしらねはや かれなてあまのあしたゆくくる/s42l