昔、男、筑紫まで行(い)きたりけるに、「これは色好むといふすき者」と、簾(すだれ)の内なる人の言ひけるを聞きて、
染川(そめかわ)を渡らん人のいかでかは色になるてふことのなからん
女返し、
名にしおはばあだにぞあるべきたはれ島波の濡衣(ぬれぎぬ)着るといふなり
昔おとこつくしまていきたりけるに これはいろこのむといふすきものとすた れのうちなる人のいひけるをききて そめ川をわたらんひとのいかてかは 色になるてふことのなからん 女返し なにしおははあたにそあるへきたはれ嶋 なみのぬれきぬきるといふなり/s68r