昔、男ありけり。いとまめにしちよう1)にて、あだなる心なかりけり。深草の御門2)になむつかうまつりける。
心あやまりやしたりけん、親王(みこ)たちの使ひ給ひける人をあひいへりけり。さて、
寝ぬる夜の夢をはかなみまどろめばいやはかなにもなりまさるかな
となん詠みてやりける。
さる歌の汚なげさよ。
むかしおとこ有けりいとまめにしち/s113r
ようにてあたなる心なかりけりふかくさ のみかとになむつかうまつりける心あ やまりやしたりけんみこたちのつかひ給 ける人をあひいへりけりさて ねぬる夜の夢をはかなみまとろめは いやはかなにもなりまさるかな となんよみてやりけるさるうたのきた なけさよ/s113l