十訓抄 第三 人倫を侮らざる事
御堂関白1)、ものへおはしけるに、道に荷負馬の先に立ちたる小童の、手に文をさげて読みけるを、「あやし」と思して、近く召し寄せて御覧じければ、目に重瞳ありて、いみじく賢き相のしたりければ、やがて召して匡衡2)につけて学問せさせられけるほどに、後には大江時棟とて、広才博覧の文士なりければ、君に仕(つか)へて博士の道を継げり。
養生の方をさへ伝へて、寿老の人たりき。
御堂関白物ヘオハシケルニ、道ニ荷負馬ノ先ニ立タ ル小童ノ、手ニ文ヲサケテ読ケルヲ、アヤシトオホシテ 近ク召ヨセテ御覧シケレハ、目ニ重瞳アリテ、イミシ ク賢キ相ノシタリケレハ、ヤカテ召テ匡衡ニ付テ学 問セサセラレケル程ニ、後ニハ大江時棟トテ広才博覧 ノ文士ナリケレハ、君ニ仕テ博士ノ道ヲツケリ、養 性ノ方ヲサヘ伝テ寿老ノ人タリキ、/k131