十訓抄 第六 忠直を存ずべき事
大納言俊明卿1)、丈六の仏を作らるる由聞きて、奥州の清衡2)、薄(はく)の料に金を奉りけるを、取らずして返し遣はしけり。
人、そのゆゑを問ひければ、「清衡は王地を多く押領して、ただ今、謀反をおこすべき者なり。その時は追討使を遣はさむこと、定め申すべき身なり。これによりて、これを取らず」とのたまへり。
三十四大納言俊明卿丈六ノ仏ヲ作ラルル由キキテ、奥州ノ清 衡薄ノ料ニ金ヲ奉リケルヲ不取シテ返遣シケ/k93
リ、人其故ヲ問ケレハ、清衡ハ王地ヲ多押領シテ 只今謀反ヲ可発者也、其時ハ追討使ヲ遣ム事 可定申身也、依之是ヲ不取トノ給ヘリ、/k94