十訓抄 第十 才芸を庶幾すべき事
妙音院大臣殿1)、尾張国におはしましける時、夜々、熱田宮に参り給ひけるが、七日満ちける夜、月のくまなかりけるに、琵琶を弾きすまして、「願はくは、今生世俗文字の業」といふ朗詠をし給ひたりければ、宝殿おびただしくゆるぎけり。
世の末なれども、道の極まりぬれば、いとめでたきことなり。
廿弐妙音院大臣殿尾張国ニオハシマシケル時、夜々熱田宮 ニ参給ケルカ、七日満ケル夜、月ノクマナカリケルニ、琵琶/k61
ヲ引スマシテ、願ハ今生世俗文字業ト云朗詠ヲシ給 タリケレハ、宝殿オヒタタシクユルキケリ、世ノ末ナレトモ 道ノ極ヌレハイト目出キ事也、/k62