十訓抄 第十 才芸を庶幾すべき事
河内重如1)をば山次郎判官と号す。其の品、いやしきものなり。
われより高き女を思ひかけて、懸想文(けさうぶみ)を書きて、手づから持て行きけり。
人づては散りもやすると思ふまにわれが使にわれか来つるぞ
女、めでてしたがひにけり。
この人、河内より、夜ごとに住江に行きて、夜を明かしけり。いみじき数寄者にてぞありける。
死ぬとても、歌を読みたりけり。
たゆみなく心をかくる弥陀仏人やりならぬ誓ひたがふな
四十五河内重如ヲハ山次郎判官ト号ス、其ノ品イヤシキモノナリ、/k80
我ヨリ高キ女ヲ思カケテ、ケサウフミヲ書テ、手ツカ ラモテイキケリ、 人ツテハチリモヤスルト思フマニ、ワレカツカヒニワレカキツルソ、 女メテテ随ニケリ、コノ人河内ヨリ夜毎ニ住江ニユキテ夜 ヲアカシケリ、イミシキスキモノニテソ有ケル、シヌトテモ 哥ヲ読タリケリ、 タユミナク心ヲカクル弥陀仏、ヒトヤリナラヌチカヒタカフナ、/k81