唐物語
昔、潘安仁という人ありけり。姿、有様、たぐひなくなまめしく清げにて、その形は玉(たま)なとのよく光る様にぞ見えける。
秋のあはれを述べて賦に作り、事に触れて情け深くやさしければ、世の中にありける女、さながら、名なを聞き形を見るより、下燃えの煙(けぶり)絶ゆるときなかりけり。
車に乗りて道を行くに、道に会ひける女、思ひのあまりにや、橘の枝を取りて、車の内に投げ入れけり。人ごとにかくしければ、果物、車に余りにけり。
巡り会ふこともやあると唐車(からぐるま)つみ余るまでなれる橘
むかし潘安仁(ハンアンシン)という人ありけりすかたありさま たくひなくなまめしくきよけにてそのかたち はたまなとのよくひかる様にそみえける秋の あはれをのへて賦につくりことにふれてなさけ ふかくやさしけれは世中にありける女さなから なをききかたちをみるよりしたもえのけ ふりたゆる時なかりけり車にのりてみちを ゆくにみちにあひける女思のあまりにやたち はなのえたをとりて車のうちになけいれけり 人ことにかくしけれはくた物くるまにあまり/m431
にけり めくりあふこともやあるとからくるま つみあまるまてなれるたちはな/m432