蒙求和歌
孟嘗還珠 卯花
後漢の孟嘗、字は伯周といへり。合浦の太守たり。郡には田をなんど作ることもなし。珠ばかりを宝として、世を渡る所なり。
前の司、政(まつりごと)横ざまして、人をわづらはし、珠を貪(むさぼ)るゆゑに、人、退き、珠1)、交趾(かうし)に移りにけり。
孟嘗、心、清潔にして、貪る心なきゆゑに、退きにし人、来たり住み。去りにし珠、還りにけり。郡、富み栄えて、昔のごとしと言へり。
荒れはてし垣(かき)の卯つ木も花咲きて昔にかへる玉川の里2)
孟嘗還珠 卯花 後漢孟嘗字ハ伯周ト云リ合浦ノ大守タリ郡ニハ田ヲ ナムトツクル事モ無シ珠許ヲ宝トシテ世ヲワタル所ナリ 前ノツカサマツリコトヨコサマシテ人ヲワツラハシ珠ヲムサホル 故ニ人シリソキ玉交趾ニウツリニケリ孟嘗心清潔ニシテ ムサホルココロナキ故ニシリソキニシ人来リスミサリニシ珠返リ ニケリ郡トミサカエテ昔ノ如シト云リ アレハテシカキノウツキモ花サキテ昔ニカヘルタマカハノサト/d1-16r