醒睡笑 巻1 祝ひ過ぎるも異なもの
信濃国より出づるなる、「からむし1)」とも、または「まを2)」ともいふ麻を、せんと作る所あり。
その一村に行きかかり、商人(あきうど)一夜の歳(とし)を越ゆるに、所の習ひにや、元日に宿主の言ふ言葉、「あさましや3)、今年は子供におくれて4)」と二・三度こそ申したれ。
思ひ内にあることを、色外に祝ふ言葉ぞや。
一 しなの国より出るなるからむしとも又はま おともいふ麻をせんとつくるところあり其 一村に行かかり商人一夜のとしをこゆるに所 のならひにや元日に宿主のいふことはあ さましやことしは子ともにをくれてと二 三度こそ申したれおもひ内にある事を色外 にいはふことはそや/n1-71r