醒睡笑 巻2 名付け親方
かたのごとく、人のもてはやす侍ありしが、「いろは」よりほかは、仮名書きの文をさへ読むことなし。
ある時、地下人(ぢげにん)参りて、わが名を変へたきよし望みければ、例のいろはを傍らに置きて、「い兵衛(ひやうゑ)と付けうかや。いや、それならば、ろ兵衛にや付けん。いや、は兵衛・に兵衛・ほ兵衛」と付くれども、「いや、ただいま少し長うて、はねた名を付きたうござある」と申したれば、「さらば、へとち左衛門と付けうず」と言へり。
一 かたのことく人のもてはやす侍ありしがいろ はよりほかはかなかきの文をさへよむことなし/n2-6r
ある時地下人参りて我か名をかへたきよし 望けれはれいのいろはをかたはらにをきて いひようへとつけうかやいやそれならはろひようへ にやつけんいやはひやうへにひやうへほひやうへ とつくれともいやたたいますこしながうて はねたなをつきたふ御座あると申たれは さらはへとち左衛門とつけうすといへり/n2-6l