醒睡笑 巻2 躻(うつけ)
十人ばかり連れ立ちて、北野1)へ夜ぶかに参詣しけり。二十五日の群集(くんじゆ)なれば、押し押され下向する道すがら、夜もほのかに明けぬ。
友達の中に一人、腰のまはりを見れば、脇差(わきざし)の鞘(さや)ばかりに刀をそへてさしたり。「こは何としたぞ」と言ふに、肝をつぶし、鞘を抜き、吹いて見つ、叩いて見つすれどもなし。
あげくに言ふことは、「おれなればこそ、鞘を取られね」。
一 十人斗つれたちて北野へ夜ふかに参詣/n2-33l
しけり廿五日のくんしゆなれはをしをされ 下向する道すから夜もほのかにあけぬ友 達の中に一人腰のまはりを見れは脇指 のさやばかりに刀をそへてさしたりこは何 としたぞといふにきもをつふしさやをぬき ふいて見つたたいて見つすれどもなしあ けくにいふ事はおれなれはこそさやを とられね/n2-34r