醒睡笑 巻2 賢だて
人の親の大事にわづらふ時、針立(はりたて)の上手1)とて呼び来たる。針立、すなはち天突の穴に針刺す。息女あまたまはりにゐて見るうちに、気色変はる。「ととの顔の色が変はりたるは」と、はらはら2)泣くを見て、針立、目を見出だし、「何事に、むざと泣くまい」と戒め、針を抜くと同時に、「さあ泣け」と言ふ。
「わつ」と泣くまぎれに出でて逃げたり。
一 人の親の大事にわつらふ時針立の上手とて よひ来る針立すなはち天突の穴にはり さす息女あまたまはりにゐて見る内に気 色かはるととの顔の色かかはりたるはとはら ばら泣を見て針立目を見出し何事に/n2-49l
むさとなくまいといましめ針をぬくと同 時にさあなけといふわつとなくまぎれに 出てにけたり/n2-50r