醒睡笑 巻2 賢だて
革草履(かはざうり)を履きて歩(あり)く者、あやまちに足を蹴破り、ことのほか血の流るるを見て、「笑止(せうし)や、いかに」と言ふ者あれば、「いや苦しからず。昔より、『革緒に塗る血1)』と あるほどに」。「さてよい作や」と人々讃めければ、「われも讃められんは、やすきことなり」とたくみ、足を破り血を流す。「何として」と人の問ふ時、「いや、これは大事なし。昔も『いろはにほへと』とあるほどに」。
一 かわさうりをはきてありくものあやまち に足をけやふりことのほか血のなかるるを 見て笑止やいかにといふものあればいやくる しからすむかしよりかわをにぬるちと ある程にさてよいさくやと人々ほめけれは はれもほめられんはやすき事也とたくみ あしをやふり血をなかすなにとして/n2-54r
と人のとふ時いや是は大事なし むかしもいろはにほへととあるほとに/n2-54l