醒睡笑 巻3 自堕落
僧俗ともにまじはり、語りなぐさむ座敷にて、ある坊主、急に咳(すはぶき)をしけるが、喉より痰のかたまりたるやうなる物を吐き出だしたり。そばにゐたる男の取りて見れば、蛸(たこ)なり。「これは異な物が出た」と、口をそろへて言ひければ、「されば喝食(かつしき)1)の時食うてあつたが、今出でた。つねに蛸は消えかぬると言ふが、まことじやよ」。
一 僧俗ともにましはり語(かた)りなくさむ座敷にて ある坊主急(きう)に咳(すはふき)をしけるが喉(のと)より痰(たん)のかた まりたる様なる物をはきいたしたりそはに ゐたる男の取て見れば蛸(たこ)なり是はゐな 物か出たと口をそろへていひければされは喝 食の時くふてあつたが今出たつねに蛸 はきえかぬるといふが誠じやよ/n3-40l