醒睡笑 巻3 自堕落
一日の精進を千日とも思ひ、こらへかぬる人はままあり。
さる間、一人の老人、他事(たじ)なき知音(ちいん)のもとに終日(ひめもす)物語し、暮れに及んで座を立つ時、「明日はわが親の日なり。無菜(ぶさい)の斎(とき)を参らせんや」と、亭の言ひければ、手を合はせ、「まつぴら御免あれ。私の親の日1)さへ難儀するに、そなたの親の精進まではのう、いやや」とぞ申しける。
一 一日の精進(しやうしん)を千日ともおもひこらへかぬる人 はままありさるあいたひとりの老人他事 なき知音のもとに終日(ひめもす)物語し暮におよ むて座をたつ時明日は我親の日なり無 菜(さい)の斎(とき)を参らせんやと亭のいひければ 手をあはせまつひら御免あれ私の親の ゐさへ難義(なんき)するにそなたの親の精進/n3-42l
まではのふいややとそ申ける/n3-43r