醒睡笑 巻5 婲心
昔語りに、女院へある時、大きなる杓子をあげけることありし。御覧じ始めなれば、何とも御知りなくて、左右へ御尋ねあれども、同じく「存ぜず」と申さるる。「さらば、下衆(げす)に問へ」と仰せある時、お半下(はした)に、右のむねを尋ねらる。聞く者をかしがりて、「名を存じたる者なし」と申せば、女院の仰せあるやう、われはこれを推(すゐ)した。鬼の耳かきであらうず」と。
時頼禅門1)
思ふべし人はすりこぎ身は杓子思ひあはぬはわれゆがむなり
一 昔語に女院へある時おほきなる杓子(しやくし)をあげける 事ありし御覧し始なればなにとも御しりなく/n5-4r
て左右へ御尋あれどもおなじく存せずと申 さるるさらばげすにとへとおほせある時おはし たに右のむねを尋らる聞者(もの)おかしがりて 名(な)を存たる者なしと申せば女院の仰せ あるやうわれはこれをすいしたおにのみみ かきであらふずと 時頼禅門 思へし人はすりこぎ身はしやくし おもひあはぬは我ゆがむなり/n5-4l