醒睡笑 巻5 上戸
酒といへば、見るもいやと思ふ下戸ゐたり。亭主、晴れなる客にても、三返(べん)の上、銚子を出だしたるためしなし。その内証を知りたるゆゑ、衆中に振舞ひのある時、亭出で、「中酒(ちうしゆ)何返(なんべん)通り候ふや」とうかがふ。三返通りしを、ちと気にかけてか、返(へん)を重ねんと思ひ、「はや四返通りて候ふ」と申す人あり。亭、それは一返過ぎた。さらばお湯を参らせよ」とぞ言うたる。
一 酒といへば見るもいやとおもふ下戸ゐたり亭主 はれなる客にても三返の上銚子を出し/n5-48l
たるためしなし其内証をしりたる故衆 中にふるまひのある時亭出中酒なんべん とをり候やとうかがふ三返とをりしをちと 気にかけてか返をかさねんとおもひはや四返 とをりて候と申人あり亭それは一返過た さらばお湯を参らせよとぞいふたる/n5-49r