醒睡笑 巻6 恋のみち
妻夫(めをと)いさかふことあり。女房、心猛く夫(おつと)を打たんと杖を上げけるに、驚きつつ前栽(せんざい)に飛び降り逃げ、山椒の木のもとに隠れぬるを、妻、縁の上より言ふ。「いかほど逃ぐるところも、かがむ所もあらうずに、あのかんばうだふれが、山椒の木の根にかがみごとは」と叱られ、男、ふるふふるふ、「いや、山椒の木ばかりではおりない。山の芋の蔓(つる)の候ふに、取り付いてゐ参らする」と申せしことのあはれさよ。
山芋、腎にもくるしからず。本草をよく見給へ。1)
恋のみち 一 妻夫いさかふ事あり女房心たけくおつとを うたんと杖をあけけるにおとろきつつ前栽に とひをりにげ山椒の木のもとにかくれぬるを妻 ゑんの上よりいふいかほと逃処もかかむ所もあ らふすにあのかんばうたをれが山椒の木の根に かかみ事はとしかられ男ふるふふるふいや山椒の 木斗ではおりない山のいものつるの候にと りついてゐ参らすると申せし事のあはれさ/n6-30l
よ 山芋腎にもくるしからす本草をよく見給へ/n6-31r