醒睡笑 巻6 推はちがうた
月次(つきなみ)の会あり。宗長のおはしけるその席の末座(ばつざ)に、弟子たる人、句を出だしぬ。指合(さしあひ)なくとまりたるを、「さては今日の句、よくよく出来けるよ」と得心し、宗長に向かつて手をおさへ、「何と聞こえ参らせたか」と申したるに、「なかなか聞こえた」とあり。ほどへて、また一句出だし、その句もとまりたるまま、ちと慢じ、また手をつき、「何と聞こえ参らせたか」といふ時に、宗長、「聞こえた。そこからここまでは聞こえた」と。
一 月次の会あり宗長のおはしける其席の 末座に弟子たる人句を出しぬさしあひなく とまりたるをさてはけふの句よくよく出来けるよ と得心し宗長にむかつて手ををさへなにと聞え 参らせたかと申たるに中々聞えたとあり程経て 又一句出し其句もとまりたるままちと慢し 又手をつきなにと聞え参らせたかといふ時に 宗長きこえたそこから爰まてはきこえたと/n6-47r