勝間田(かつまた)の言ひも出ださぬ池にてだにも、濡れにし袖は乾く間なくて、あまたの春秋(はるあき)はゆきかへりにしぞかし。さざ波や近江(あふみ)の海1)のみるめなぎさにたどりては、また月日の数々積もれども、いや年のはにおき所なき、心のうちをせき止めがたくて、忍びも果てずなりにしぞかし。袖に涙のかかりける、契りのほどを知らずして、ありしその夜のあけぼのに、思ひしことのはかなさをなん、
昨日まで恨みし袖に今朝よりは逢ふ嬉しさを包みつるかな
かつまたのいひもいたさぬいけ にてたにもぬれにしそては かはくまなくてあまたのはる 秋はゆきかへりにしそかし ささなみやあふみのうみの みるめなきさにたとりては またつきひのかすかすつもれ ともいやとしのはにをき所なき/s7l
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こころのうちをせきとめかたく てしのひもはてすなりに しそかしそてになみた のかかりけるちきりのほと をしらすしてありしその よのあけほのにおもひし ことのはかなさをなん きのふまてうらみしそてにけさよりは あふうれしさをつつみつるかな/s8r