元日、なほ同じ泊(とまり)1)なり。白散(びやくさん)を、ある者2)、夜(よ)の間とて、船屋形(ふなやかた)にさし挟めりければ、風に吹きならされて、海に入れて、え飲まずなりぬ。
芋茎(いもじ)・荒布(あらめ)も、歯固めもなし。かうやうの物無き国なり。求めしもおかず。ただ、押鮎(おしあゆ)の口をのみぞ吸ふ。この吸ふ人々の口を、押鮎もし思ふやうあらんや。
今日は都のみぞ思ひやらるる。「小家(こへ)の門(かど)の注連縄(しりくへなは)の鯔(なよし)の頭(かしら)、柊(ひひらぎ)ら、いかにぞ」とぞ言ひあへなる。
元日なほおなしとまりなり白散を あくものよのまとてふなやかたにさし はさめりけれはかせにふきなら/kd-13r
されてうみにいれてえのますなりぬ いもしあらめもはかためもなしかう やうのものなきくになりもとめしも おかすたたおしあゆのくちをのみそ すふこのすふひとひとのくちをおし あゆもしおもふやうあらんやけふは みやこのみそおもひやらるるこへの かとのしりくへなはのなよしの かしらひひら木らいかにそとそいひ あへなる/kd-13l