二十二日、夜(よ)んべの泊(とまり)より、異泊(ことどまり)を追ひて行く。遥かに山見ゆ。
年九つばかりなる男(を)の童(わらは)、年よりは幼くぞある。この童、船を漕ぐまにまに、山も行くと見ゆるを見て、あやしきこと歌をぞ詠める。その歌、
漕ぎて行く船にて見ればあしびきの山さへ行くをまつは知らずや
とぞ言へる。幼なき童はの言(こと)にては、似つかはし。
今日、海荒げにて、磯に雪降り、波の花咲けり。ある人の詠める、
波とのみひとつに聞けど色見れば雪と花とにまがひけるかな
廿二日よんへのとまりよりこととまり をおひてゆくはるかにやまみゆとし ここのつはかりなるをのわらはとしよりは/kd-30l
https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100421552/30?ln=ja
をさなくそあるこのわらはふねを こくまにまにやまもゆくとみゆるを みてあやしきことうたをそよめる そのうた こきてゆくふねにてみれは あしひきのやまさへゆくをまつは しらすやとそいへるをさなきわら はのことにてはにつかはしけふうみ あらけにていそにゆきふりなみの はなさけりあるひとのよめる/kd-31r
なみとのみひとつにきけといろみれ はゆきとはなとにまかひけるかな/kd-31l