大和物語
志賀山越えの道に、いはみといふ所に、故兵部卿の宮1)、家をいとおかしう造り給ひて、時々参り給ひけり。いと忍びておはしまして、志賀に詣づる女ども見給ふ時もありけり。おほかたもいとおもしろく、家もいとをかしうなんありける。
とし子、志賀に詣で給ひけるついでに、この家に来て、見めぐりつつ見て、あはれがり、めでなどして、書き付け給ひける。
かりにのみ来る君待つとふり出(で)つつ泣くしが山はあきぞ悲しき
となん書きつけて往にける。
志賀やまこえのみちにいはみといふ ところにこひやうふきやうのみや 家をいとをかしうつくり給てときとき/d23r
まいりたまひけりいとしのひておはしま してしかにまうつる女ともみたまふ ときもありけりおほかたもいとおもし ろくいへもいとをかしうなんありける としこしかにまうてたまひけるつひてに このいへにきてみめくりつつみてあはれか りめてなとしてかきつけたまひける かりにのみくるきみまつとふりて つつなくしかやまはあきそかなしき となんかきつけていにける/d23l