世継物語
今は昔、五月の長雨のころ、上の御局の御簾の前に、斎院頭1)中将、寄り居給へりけるが、2)まことにめでたく香ばしう、その物とも思へず。
雨にしめりたるほどの、いみじうおかしかりけり。五六日まで簾に移りたりければ、若き女房達、染みかへり、めであはれたりけり。
一条院の御時、皇后の御方にぞ。
今は昔五月のなか雨の比うへの御局のみすのまへに 斎院頭中将よりゐ給へりけるかのまことにめてた く香はしうその物ともおほへす雨にしめりたる程 のいみしうおかしかりけり五六日まて簾にうつりたり けれはわかき女房達しみかへりめてあはれたりけり一 条院の御時皇后の御方にそ/15オ