text:chomonju:s_chomonju477
古今著聞集 遊覧第二十二
477 保安五年閏二月十二日法皇新院御同車にて白川の花を御覧ぜられけり・・・
校訂本文
保安五年閏二月十二日、法皇1)・新院2)、御同車にて、白川の花を御覧ぜられけり。殿下3)・太政大臣4)以下(いげ)、騎馬にて供奉(ぐぶ)せさせ給ひけり。中宮の女房、車一両やりたてて見物せられけり。法勝寺の西門より、御車を引き入れて、花のもとに立てられけり。
その後、白川の御所へ入御ありて、人々に饌(せん)を賜はせける。頭中将忠宗朝臣5)ぞ勧盃(けんぱい)せられける。太政大臣、盃を取り給ひて、殿下にさし参らせられけり。
その後、新院出御ありて、和歌を講ぜられける。頭弁雅兼朝臣6)、講師なりけり。内大臣7)、席を書き給ひけるに、「海内苗安日、洛外花開其時」と、かみおろしに書き給ひたりける、いと興ありける。
御製をば、中納言実行卿8)ぞ講じ給ひける。
御製9)
尋ねつるわれをや花は待ちつらん今日ぞさかりに匂ひ増しける
太政大臣
白川の流れ久しき宿なれば花の匂ひものどけかりける
殿下
常よりもめづらしきかな白川の花もてはやす今日の御幸は
内大臣
影清き花の鏡と見ゆるかなのどかに澄める白川の水
このほかの歌ども、こと長ければ記さず。
翻刻
保安五年閏二月十二日法皇新院御同車にて 白川の花を御らんせられけり殿下太政大臣以下 騎馬にて供奉せさせ給けり中宮の女房車 一両やりたてて見物せられけり法勝寺の西門 より御車を引入て花のもとにたてられけり/s374l
http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/374
其後白川の御所へ入御ありて人々に饌を給 はせける頭中将忠宗朝臣そ勧盃せられける 太政大臣盃をとり給て殿下にさしまいらせ られけり其後新院出御ありて和哥を講せら れける頭弁雅兼朝臣講師なりけり内大臣 席を書給けるに海内苗安日洛外花開其時 とかみおろしにかき給たりけるいと興ありける御 製をは中納言実行卿そ講し給ける (御製)尋つる我をや花はまちつらんけふそさかりに匂ましける 太政大臣 しら川のなかれ久しき宿なれは花の匂ものとけかりける/s375r
殿下 つねよりもめつらしき哉白川の花もてはやすけふの御ゆきは 内大臣 影きよき花の鏡とみゆるかなのとかにすめる白川の水 このほかの哥とも事なかけれはしるさす/s375l
text/chomonju/s_chomonju477.txt · 最終更新: 2020/08/15 22:35 by Satoshi Nakagawa