text:chomonju:s_chomonju716
古今著聞集 魚虫禽獣第三十
716 足利左馬入道義氏朝臣美作国より猿をまうけたりけり・・・
校訂本文
足利左馬入道義氏朝臣1)、美作国より猿をまうけたりけり。その猿、えもいはず舞ひけり。入道、将軍2)の見参に入りたりければ、前能登守光村3)に鼓打たせられて舞はせられけるに、まことにその興ありて不思議なりけり。顕紋紗(けんもさ)の直垂・小袴にさはら巻きさせて、烏帽子をせさせたりけり。始めはのどかに舞ひて、末ざまにはせめふせければ、上下目を驚かかして興じけり。舞ひ果てては、必ず纏頭(てんどう)を乞ひけり。取らせぬかぎりは、いかにも出でざり4)ければ、興あることにて、舞はせては必ず纏頭を取らせけり。
件(くだん)の猿、やがて光村あづかりて飼ひけるを、馬屋の前に繋ぎたりけるに、いかがしたりけん、馬に背中を食はれたりけり。そののち舞ふこともせざりければ、念なきことかぎりなし。
翻刻
足利左馬入道義氏朝臣美作国より猿をまうけ/s555r
たりけりそのさるえもいはすまひけり入道将軍の 見参に入たりけれは前能登守光村につつみうた せられてまはせられけるにまことに其興ありて ふしきなりけりけんもさのひたたれこはかまにさはら まきさせて烏帽子をせさせたりけりはしめは のとかにまひてすゑさまにはせめふせけれは上下め をおとろかして興しけりまひはてては必纏頭を こひけりとらせぬかきりはいかにもいてけれは興ある ことにてまはせてはかならす纏頭をとらせけり件 猿やかて光村あつかりてかひけるを馬屋の前に つなきたりけるにいかかしたりけん馬にせなかを/s555l
http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/555
くはれたりけりそののち舞こともせさりけれは 念なきことかきりなし/s556r
text/chomonju/s_chomonju716.txt · 最終更新: 2021/01/29 23:25 by Satoshi Nakagawa